研究室

vol 7.PFIの普及と不動産鑑定の役割に関して

2006/10/13

1.はじめに

近年、公共サービスの効率的な供給及び財政負担の軽減を目的としたPFI(Private Financing Initiative)が、公共事業の新しい手法として地方自治体を中心に広がりつつあります。本稿ではPFIの内容を具体的に紹介すると同時に、PFIの普及に伴い不動産鑑定がどのような役割を担うことができるのかを考えてみたいと思います。

日本における社会資本の整備状況は他の先進国と比べて遅れており、公共事業を進めてゆくことは依然として必要なのですが、国、自治体が多額の財政赤字を抱える現状において、どのようにして社会資本を整備してゆくかが課題となっています。
そのような中で、新しい公共事業方式としてPFIが注目されるようになりました。我が国では、1999年にPFI法が施行され、2000年にはPFI実施の基本方針が制定されました。
PFIは、民間事業者に公共施設の建設、運営、維持管理の全てを委託することにより、民間のノウハウを生かした公共サービスの効率性向上と財政負担の軽減を目的としています。
公共サービスの効率的な供給とは、民間において培われてきた事業ノウハウを公共サービスの分野にも適用することにより、従来型の公共事業よりも少ない資本で公共サービスが提供できるようになることを意味します。
財政負担の軽減とは、施設建設時の多額の一時金負担を公共機関が回避できることを意味します。逆に言えば、民間事業者の負担になるということです。
PFIにより、民間のノウハウが公営住宅、福祉施設、教育文化施設等の運用に活用され、都市の活性化につながることも期待されています。例えば、公営住宅の一部に商業施設を導入したり、保育園等の教育施設を運営したり、創業者支援のためのインキュベーターオフィスを導入するなど、従来型の公共事業では実現が困難であり、なおかつ、民間事業者にとって収益機会が広がるような複合公共施設の提供も可能になると考えられます。

民営化の流れが不可欠となる時代において、PFIは主要な公共事業方式の1つになると考えられます。日本におけるPFIの実施状況は次の通りです。

実施方針が策定・公表された事業

(平成18年8月16日現在。内閣府PFI推進室ホームページよりまとめ)

教育と文化…文教施設・文化施設
生活と福祉…福祉施設、職業訓練施設
健康と環境…医療施設・保険衛生施設・廃棄物処理施設・水道施設・斎場・浄化槽
産業   …農業振興施設・工業振興施設・漁港
まちづくり…道路・公共交通・空港・河川・公園・下水道施設・海岸保全・港湾施設
公営住宅・市街地再開発
あんしん …警察施設・消防施設・防災施設・行刑施設
庁舎と宿舎…庁舎・宿舎
その他  …複合施設・その他


なお、近畿におけるPFIの導入状況は次のようになっています(奈良県内と和歌山県内においては現在のところ事例はありません)。

2.PFIの形態と方式

●2-1.PFIの形態

PFIの形態としては、①サービス購入型、②ジョイントベンチャー型、③独立採算型の3つが存在します。
①サービス購入型
民間事業者が作り出した公共サービスを公共機関が購入して国民に提供する事業形態であり、最も一般的なPFI形態といえます。
②ジョイントベンチャー型
民間資金と公共資金(補助金等)を利用して、主に民間事業者が公共サービスを提供し、公共サービスの利用料金から事業コストを回収する事業形態です。
③独立採算型

公共機関からの事業認可に基づき民間事業者が公共サービスの提供を行い、公共サービスの利用料金から事業コストを回収する事業形態です。公共機関の負担はありません。

●2-2.PFIの方式

PFIの事業方式にもいくつかの種類があり、代表的なものとしてBOTとBTOに分類されます。それらは、民間事業者により建設された公共施設の所有権が、いつの時点で公共機関に移転されるかにより区別されます。
BOTとは、民間事業者が公共施設を建設(Build)し、一定期間運営(Operate)を行い、事業期間終了後に公共機関に施設所有権を移転(Transfer)する方式です。

一方、BTOとは、民間事業者が公共施設を建設(Build)し、施設完成後に所有権を公共機関に移転(Transfer)し、公共機関から事業の運営権を得て運営(Operate)する形態です。

BOT 建設(Build)-運営(Operate)-移転(Transfer)
民間事業者が公共施設を建設し、一定期間事業運営して投資コストを回収し、施設の所有権を公共機関に移転する方式。
BTO 建設(Build)-移転(Transfer)-運営(Operate)
民間事業者が公共施設を建設し、施設の所有権を公共機関に移転する一方、施設の運営権を得て投資コストを回収する方式。

3.従来型公共事業とPFIとの相違

従来型の公共事業は、公共機関の設計に基づいた施設建設を落札企業が行うものであり、いわゆる「仕様発注方式」と呼ばれます。また、施設の運営を委託する場合でも、公共機関の定めた方法にしたがって民間企業が運営を行うだけであり、民間のノウハウを活かすという考えではありませんでした。
一方、PFIの場合には、公共機関は公共施設の性能だけを決定し、設計以降の全ての段階において民間の工夫が活用できる仕組みとなっています。逆に言えば、民間事業者にとってリスク管理が重要な課題となることを意味します。

PFIに関連する主体としては、公共機関、民間事業者をはじめとして、資金の供給主体である金融機関や投資家、公共機関に対する各種助言を行うアドバイザーからなり、多様な主体による公共事業への関与によって、質の高い公共サービスの提供が期待できます。

 
〔従来の公共事業方式〕

 

〔PFIによる公共事業方式〕

4.PFIと不動産

公共サービスの多くが公共施設の利用によるサービスの提供であり、不動産の利用と密接な関わりを持ちます。
従来型の公共事業においても、土地の取得等において不動産鑑定士による価格評価等が利用されてきました。
PFIの場合、公共機関は民間事業者の資金調達計画から公共施設の建設、運営、維持管理等を総合的に判断して民間事業者を選定することになるので、各種アドバイザーによる助言を必要とすることになります。
特に、初期投資としての不動産の取得、施設のライフサイクルコストの妥当性に関して、不動産鑑定士等の専門家の意見が必要になると思われます。
同じ内容の公共事業であっても、どの場所で事業を行うかにより採算に大きな差が出る可能性があります。したがって、公共機関が民間事業者を選定する際に、初期投資の妥当性を的確に判断することが重要な課題となります。不動産の鑑定評価においても、この問題に対して適切なアドバイスを提供するためには、従来型の公共事業における鑑定評価と異なり、事業期間にわたる収支を詳細に検討したDCF法による評価が不可欠になると考えられます。
PFIの場合、民間事業者は、土地の取得等を含めた施設の建設に際して多額の資金が必要になります。この点は、従来型の公共事業において、民間事業者は施設建設の資金を準備する必要が無かったことと大きく異なる点です。よって、PFIにおいては、建設資金の調達が重要な問題となります。
PFIにおける資金調達方法の1つとして不動産証券化が考えられます。なぜなら、公共サービスの提供も公共施設という不動産の利用により可能になるものであり、PFIの収益は不動産の利用価値から発生する収益といえるからです。また、公共機関が破綻しない限り、投資家は投資の回収ができることもPFIにおける不動産証券化のメリットといえるでしょう。
個人投資家を含めた幅広い投資を誘引するためには、PFI専門の投資信託の設立等も必要になってくると思われます。証券化に際しては不動産の詳細な調査が必要であり、この点においても、不動産鑑定士の役割が重要になると考えられます。

いずれにせよ、今後PFIが普及してゆくなかで、試行錯誤を重ねながらも、公平・中立な立場にある不動産の専門家として、不動産鑑定士がその一役を担うべく努力することが重要であると思われます。

(参考文献)
野田由美子編著『民営化の戦略と手法』日本経済新聞社
PFIビジネス研究会『図解でわかるPFIビジネス』日本能率協会マネジメントセンター
福島直樹『英国におけるPFIの現状』日刊建設工業新聞社
渡辺晋『改訂版これ以上やさしく書けない不動産の証券化』PHP
佐藤一雄『不動産証券化の実践』ダイヤモンド社

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