研究室

vol 6.国土交通省による土地取引価格情報の公表

2006/09/05

土地取引価格情報のインターネット公表

2006年4月27日から、国土交通省による土地取引価格情報のインターネット公表がスタートしました。公表スタートから1週間で約280万件のアクセスがあり、3月の平成18年度地価公示価格発表後1週間のアクセス数約145万件を大きく上回りました。現在も1日約15万件程度のアクセスがあるようです。
国土交通省ホームページ内土地総合情報システム
http://www.land.mlit.go.jp/webland/

目的・経緯

この土地取引価格情報が公表された目的として、近年のJ-REITや私募ファンドなど不動産証券化の進展、不動産投資市場の拡大や減損会計の導入、中古住宅市場の成長など不動産市場を取り巻く環境が大きく変化しています。このような状況の中で例えば商業地については収益性を、住宅地については快適性や利便性を自らの責任で合理的に判断する需要者が増え、取引の判断材料として幅広い土地の情報が求められようになり、特に実際に取引された不動産価格に関する情報は、当該不動産に関する条件や個別事情が市場で評価され、集約された結果であるから、収益性や利便性、快適性を判断する材料としては不可欠な情報となります。また、海外ではすでに取引情報がインターネットや登記所などで入手可能(下表参照)です。
このような状況において、不動産の取引情報について、今回、「土地取引価格情報」としてインターネットによる実際の取引価格の公表が始まりました。

諸外国の取引価格情報の整備・提供の状態   公開方法 情報の収集 インターネットによる
対応料金
 公開方法情報の収集インターネットによる
対応料金
イギリス
(イングランド・ウェールズ)
登記に記載し公開 契約書を登記所に提出 対応済み
2ポンド~/件
アメリカ合衆国
(メリーランド州)
税務当局が税務情報を公開 捺印証書を登記所と税務署に提出 対応済み
無料
フランス 登記所が契約書を登記簿として公開 契約書を登記所に提出 非対応
シンガポール 登記に記載して公開 契約書を登記所に提出 対応済み
5.15シンガポール$/件
オーストラリア
(クィーンズランド州)
天然資源省が土地情報システム上で公開 契約書を登記所に提出 対応済み
8.6豪州$/件
ドイツ 土地鑑定委員会が秘匿済み情報を公開 契約書の写しを土地鑑定委員会に送付(法定) ベルリン市では秘匿情報を提供中
7ユーロ/件

住宅新報社「不動産鑑定 2006年8月」53項より一部を抜粋

取引価格情報の収集・提供スキーム(概略)

 取引情報の収集・提供に至るスキームの概略は、まず法務省から登記の異動情報を得て(上図①)、取引当事者(買主)に対し取引価格等に対するアンケート調査を実施(上図②、③)。回収した調査結果を基に(上図④)不動産鑑定士が現地調査を行い、取引事例カードを作成(上図⑦)。この取引情報を利用し地価公示価格の鑑定評価書を作成し、取引事例カードとともに提出(上図⑧)。提出された評価書をもとに地価公示価格が公表され、一方取引情報は個別の物件が容易に特定できないように配慮し、加工されて土地取引価格情報として公表されます。 

公表内容

Ⅰ.価格情報一覧

・場所が特定されない範囲の住所
・取引時期(四半期毎)
・土地の種類(住宅地、商業地、工場地)
・取引の内容(更地、建付地(建物有)、マンション等)
・価格(更地はm2単価と総額、建付地・マンションは総額のみ)
・地積(m2)
・建物の床面積・種類(居宅、店舗、事務所等)・建築年・構造(木造、鉄骨造等)
・用途地域(都市計画の用途地域)
・形状(長方形、台形、不整形等)
・2006年4月初回に公表されたのは、平成17年第3四半期(7月~9月)及び第4四半期(10月~12月)に取引きされたもので、17,609件。対象地域は、さいたま市の一部、東京23区、川崎市、横浜市、名古屋市、大阪市、京都市、京都府の一部、岐阜市、岐阜県の一部。平成18年度には、全国の政令指定都市に拡充される予定です。

No.住所取引時期土地の種類取引の内容価格(総額)価格(m2単価)面積(m2)
1 京都府京都市左京区一乗寺中ノ田町 H18/01-03月 住宅地 更地 \87,000,000 \200,000 430
2 京都府京都市左京区一乗寺中ノ田町 H18/01-03月 住宅地 更地 \34,000,000 \200,000 165
3 京都府京都市左京区一乗寺松田町 H18/01-03月 住宅地 更地 \20,000,000 \180,000 115
4 京都府京都市左京区岩倉幡枝町 H18/01-03月 住宅地 更地 \26,000,000 \150,000 170
5 京都府京都市左京区岩倉花園町 H18/01-03月 住宅地 更地 \73,000,000 \150,000 470
6 京都府京都市左京区岩倉花園町 H18/01-03月 住宅地 更地 \8,500,000 \150,000 65
7 京都府京都市左京区岩倉花園町 H18/01-03月 住宅地 更地 \1,500,000 \45,000 35
8 京都府京都市左京区岩倉南平岡町 H18/01-03月 住宅地 更地 \40,000,000 \240,000 165
9 京都府京都市左京区北白川小倉町 H18/01-03月 住宅地 更地 \120,000,000 \330,000 380
10 京都府京都市左京区北白川東伊織町 H18/01-03月 住宅地 更地 \82,000,000 \300,000 280
11 京都府京都市左京区銀閣寺町 H18/01-03月 住宅地 更地 \3,300,000 \68,000 50
II.加工情報

「土地取引価格情報」のホームページ(GIS版)では、取引件数の多いカテゴリーについては下のような「加工情報」としてヒストグラム化されています。おおまかですが、そのカテゴリー内において、どれくらいの価格帯で多く取引がなされているかなどを視覚的に捉えることができます。

<平成18年第1四半期 京都市内の住宅地のヒストグラム(一部)>
(グラフの見方…縦軸:取引件数  横軸:単価(万/m2)

土地取引価格情報の活用について

土地取引価格情報が活用されることによって実現されると思われる公共の利益としては、次のようなものが挙げられます。

①市場参加者が増加し、市場が効率化され土地取引が活性化
●土地市場の信頼性が高まり、市場参加者が増加
不動産市場は一般の個人消費者にはまだまだ「よくわからない」「大変」「なんとなく不安」というイメージがあると考えられていますが、不動産市場の信頼性が増し、安心感が増加すれば、ライフステージによる住み替え等の潜在的な需要や、個人投資家による不動産市場へのさらなる参加が期待できます。

●潜在的な市場参加者の開拓
土地に関する情報が簡単に入手できるので、土地市場に興味を持つ人が増加するため、将来の市場参加者の拡大に貢献できます。興味をもって取引情報を眺めている人は、自覚的ではないにしろ、土地市場の動向を理解して、将来の購入の意思決定の予行を行っていると考えられます。

●物件の説明性が高まるので効率的な市場になる
売主・買主による値付けの時間短縮につながり、物件滞留時間も短縮されるので不動産の流動性がさらに高まります。特に中古物件については新築物件と異なり、価格に幅があることから、売主・買主の相場感が近づくことによって、取引に要する期間の短縮にもつながります。

●国際競争力のある土地市場の環境の整備
諸外国は既に投資環境を整えて、自国の土地市場へより多くの外国資本を呼び込む為の施策を講じていますが、日本も土地市場における市場環境を整備し、取引情報を提供することにより、欧米諸国やアジアとの透明性の観点において、比肩できる市場環境へと発展していくものと思われます。

②市場メカニズムによる調整が機能する
●情報により、地価高騰の行き過ぎを是正
かつてのバブル期において物件の市場での評価が実態の経済価値とかけ離れていった原因の一つとして、市場での判断材料が乏しかった為、市場参加者が物件の価格水準を判断することが困難であったことが挙げられます。取引価格の公表は市場の行き過ぎを是正するメカニズムが働き、必要としている者に円滑に土地が移転され、適正に利用されることが期待できます。

●市場の選別により、良質な都市ストックの維持・管理に資する
良質な物件が消費者から正しく評価されることによって、長期的に望ましいストック形成を促すことができます。例えば、将来的にも良好な街並みにある物件など、中古物件でもきちんと維持管理されれば、金利も低く設定されるなど、金利の面で正しく評価されれば、よりよい状態に維持管理しようというインセンティブが働き、良質なストック形成に資することになります。

③土地取引価格情報を活用した施策の展開
土地取引価格情報の把握により、土地の市場規模の正確な計算、所有と利用の分離の状況、取引の時点での利用の転換等の把握等、土地市場の情報を迅速に、詳細に把握・分析ができるようになり、経済的またはその他の施策の支援など、幅広い土地政策を行うことができるようになります。

おわりに 地価公示価格との関係

これまで、国土交通省が公表してきた地価公示との関係ですが、地価公示は標準的な土地価格の情報を提供し、一般の取引に指標を与える機能と、公共用地の取得価格の規準、課税評価の目安といった行政上の機能を持っています。取引価格情報は売り急ぎや買い進みといった個別の取引の事情や建物等の定着物、使用収益を制約する権利が付着しているといった個別の特性を内包した、幅をもった情報です。
地価公示価格と取引価格を比較すると、例えば、まず、①地価公示価格は標準的な価格水準を表した価格であるが、取引価格は個別の事情が存在するため、一般の人が取引価格から不動産の標準的な価格水準を判断するのは専門的な知識を要するため難しいこと。
②地価公示価格は毎年1回1月1日時点の価格であるのに対し、取引価格は四半期に1回の公表であることから、地価公示価格に比べ、情報が常に新鮮であること。
③地価公示価格は場所が特定され、公表されており、毎年ほぼ同じ地点であるため物件の特性が把握でき、また時系列的な分析が行える反面、地価公示価格の対象地(標準地)が、価格の知りたい物件の周辺にない場合、一般の人が価格の比較を行うのは難しいこと。一方取引価格は物件の所在が特定できず、物件の特性の把握はできないが、取引が発生すれば、これまで周辺に標準地がなかった地域においても、価格の情報を知ることができる可能性があること。
④地価公示価格は更地価格(m2単価)のみであり、これは建物が建っていても、これをないものとした場合の価格であるが、取引価格は更地価格(m2単価・総額)の他、建物の価格も含めた建付地(総額のみ)やマンション価格(総額のみ)も新たに公表されているなど、情報の種類が多くなっていること。

<地価公示価格と取引価格の比較>

地価公示 取引価格
土地鑑定委員会が2人以上の不動産鑑定士による鑑定評価を求め、その結果を審査し必要な調整を行って判定された価格 価格の性格 現実に取引された価格に一定の端数処理を行った価格
所在地が特定・公表されており、毎年ほぼ同じ地点である(所在地の選定替などが行われる場合もある)。 所在 所在地の情報は主に町丁名まで。物件の特定はできないようになっている。
面積、形状、地域の状態、前面道路、駅距離、用途地域、建ぺい率、容積率など 物件情報 面積、形状、用途地域
1年に1回の公表。毎年1月1日時点での価格 価格時点 四半期に1回公表取引時点は四半期の範囲内であるが、具体的な月日は不明
更地のみ(建物が建っていても、これをないものとした場合の価格) 類型 更地、建付地、マンション

このように公示価格と取引価格情報は相互に特徴を有する為、これらの情報が補完し合いながら活用されることによって、市場に有用な情報が提供され、今後さらに不動産取引市場の透明化・活性化が進んでゆくものと思われます。 

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