研究室

vol.15.大型商業施設の出店が周辺住宅地価に及ぼす影響は?

2010/06/16

1. はじめに

  去る2008年秋、滋賀県では大型店舗の出店が相次ぎました。 草津市の『イオンモール草津』、大津市の『フォレオ大津一里山』、『アル・プラザ堅田』、守山市の『ピエリ守山』、甲賀市の『フレンドタウンコウカ』等々です。 それから約1年半、これらの店舗の中でも、商業施設面積86,000m2と滋賀県最大規模であるイオンモール草津に焦点をしぼり、大型商業施設の進出が周辺地価にどのような影響を及ぼすかについて、調べてみることにしました。
手法としては次のとおりです。

1.まずイオンモール草津の周辺の地価公示、地価調査のポイントの中から最も近接する地価調査基準地、草津(県)-13、大津(県)-37の2ポイントをピックアップし、これらの地価の推移と人口の推移を調べます。
同時にそのポイント周辺の新興住宅地域の取引事例を収集し、取引価格の推移を調べます。 なお既成住宅地域の取引事例は少なく、売り急ぎや買い進み等の個別事情を含むことも多いことから、今回は新規分譲地で、業者からエンドユーザーへの取引を調査対象とします。 また業者による価格設定の差異が地価推移を適切に反映しないことを避けるため、同一業者による同一団地内の事例にしぼって分析します。

2.次に、上記2ポイントと最寄駅からの距離や住環境が類似し、イオンモール草津の出店の影響をダイレクトに受けないと推測される立地状況(遠隔地域)にあるポイントとして、地価調査基準地 草津(県)-2をピックアップし、これらの地価の推移と人口の推移を調べます。 同時にそのポイント周辺の新興住宅地域の取引事例を収集し、取引価格の推移を調べます。 1と同様に一業者のエンドユーザー取引を調査対象とします。

3.上記1と2を比較することで、イオンモール草津の出店の影響を分析します。

2. イオンモール草津の概要

 まずイオンモール草津の概要を見てみましょう。
当商業施設は核店舗『草津サティ』と専門店が186店、ワーナー・マイカル・シネマズが入居し、2008年11月26日にグランドーオープンしました。 商業施設面積86,000m2、駐車場4,300台で(イオンモールHPより)、イオングループのSCでは3番目の規模、滋賀県の商業施設では最大規模です。 滋賀県土木交通部の調べでは、開店直後は来店交通量予測17,300台/日を上回る約19,000台/日の来店があり、翌年4月時点でも16,000台/日となっています。

3. イオンモール草津出店前後の経済動向

では、イオンモール草津出店前後、日本はどのような経済状況にあったのでしょうか。
2006年後半、アメリカで上昇を続けていた住宅地価の下落が始まり、2007年、サブプライムローン問題がクローズアップされます。 2008年9月15日、アメリカでリーマンブラザーズ破綻(リーマンショック)、9月29日米国下院が緊急経済安定化法案を一旦否決したのを機に、NY証券取引市場のダウ平均株価が暴落しました。
10月9日、ニューシティ・レジデンス投資法人がJ-REIT初の破綻、10月10日大和生命保険が破綻し、同日日経平均株価が下落率では戦後4番目の下げ幅を記録する暴落を記録しました。 日本の実質GDPは2008年から2009年にかけて暦年比▲5.2%のマイナスと大幅な経済悪化を示しました(内閣府経済社会総合研究所2010年3月11日付公表)。

■日本実質GDP(暦年)の推移
出典:内閣府経済社会総合研究所

4. 周辺住宅地の動向

 それでは周辺住宅地の地価動向について見ていきましょう。
 各住宅地については、地域の特性と最寄駅、既存の最寄スーパー、及びイオンモール草津からの距離を併記します。

1.イオンモール草津近接の住宅地の地価及び人口の推移

(1)草津(県)-13  /草津市新浜町 新興住宅団地 JR瀬田駅より1.5km
フレンドマート南草津店より2.3km イオンモール草津より1.3km

グラフa

 
 
【所見】人口は2006年から2007年にかけて増加、2008年に微減の後、2009年にかけて再び増加しています。地価は2006年から2008年にかけて上昇、2008年7月1日時点で下落に反転しています。


(2)取引事例地①  /草津市南笠町 新興住宅団地 JR南草津駅より約1.6km、
フレンドマート南草津店より約1.2km、イオンモール草津より約2.1km

グラフb

 
【所見】取引価格の近似値はほぼ横ばいで推移しています。


(3)大津(県)-37  /大津市萱野浦 既成住宅団地 JR瀬田駅より2km
アルプラザ瀬田より2.7km、イオンモール草津より1.5km

グラフc

 
【所見】人口は増加しています。ただし大津市の統計データは人口を年齢別と学区別で整備されているため、人口は学区で計上しており、対象基準地の存する住宅団地のみならず、該当する瀬田北学区全域のデータとなっています。 地価は2006年から2008年にかけて上昇、2008年7月1日時点で下落に反転しています。


(4)取引事例地②  /大津市大萱 新興住宅団地 JR瀬田駅より約1.2km、
アルプラザ瀬田より約1.6km、イオンモール草津より約720m

グラフd

 
【所見】人口は増加しています。ただし大津市の統計データは人口を年齢別と学区別で整備されているため、人口は学区で計上しており、対象基準地の存する住宅団地のみならず、該当する瀬田北学区全域のデータとなっています。 地価は2006年から2008年にかけて上昇、2008年7月1日時点で下落に反転しています。

2.イオンモール草津の出店の影響をダイレクトに受けないと推測される立地状況
(遠隔地域)にある住宅地の人口及び地価の動向

(1)草津(県)-2  /草津市南笠東3丁目 既成住宅団地 JR南草津駅より2km
西友南草津店より1.4km、イオンモール草津より3.2km

グラフe

 
【所見】人口は減少しています。地価は2006年から2008年にかけて上昇、2008年7月1日時点で下落に反転しています。

(2)取引事例地③  /草津市追分町 新興住宅団地 JR南草津駅より約1.4km、
フレンドマート追分店より約60m、イオンモール草津より約5.4km

グラフf

 
【所見】取引価格の近似値はわずかに上昇を示しています。

3.分析
(1)地価調査基準地の人口推移からみる分析

 イオンモール草津近接地域の、草津(県)-13及び大津(県)-37の人口推移はいずれも増加していますが、遠隔地域の草津(県)-2の人口は減少しています。
 草津(県)-13は新興住宅団地ですが、分譲後約10年経過しており、人口流入も落ちつきを見せ始める時期です。
 大津(県)-37は昭和60年代に開発された既成住宅団地です。
駅やスーパーはやや遠いものの周辺には飲食店や物販店があり、比較的利便性の良い住宅地域です。 学区は瀬田北学区に該当し、この学区は人気が高く、従来から宅地開発が活発であった地域です。 人口データは前述の通り学区ベースのもので、周辺の新規開発された団地の人口も含まれるため、やや信憑性に欠けることは否めません。
 草津(県)-2は昭和50年代に開発された、国道背後の既成住宅団地です。

比較前提条件がフラットでないため難しいところですが、いずれの地域も最寄駅が1.5~2km、既存最寄スーパーが1.4~2.7kmと徒歩限界圏~圏外にある住宅団地という点が共通しています。
草津(県)-13、大津(県)-37とも、既存スーパーより近くにイオンができたことで日々の生活利便性が増し、人口増加を後押しする一要因となった可能性が伺えます。

(2)地価調査基準地の地価推移からみる分析

 地価調査の基準地における告示地価の推移はいずれも2006年~2008年までは上昇し、2008年7月で反転、以降下落しています。
草津(県)-13は▲1.0%、大津(県)-37は▲1.9%、草津(県)-2は▲2.1%と、下落幅は草津(県)-2が最も大きくなっています。 経済悪化の影響を凌ぐ勢いまではなくとも、イオンモール草津出店が地価下落の歯止めに影響している可能性が伺えます。

(3)取引事例価格の近似値推移からみる分析

 取引事例地①~③はいずれも最寄駅から約1.2~1.6kmの新興住宅団地です。
イオン近接地域のうち、①の草津市南笠町はほぼ横ばい、②の大津市大萱は下落を示しています。
①は既存スーパーがイオンより近くにあり、店舗の規模は小さいものの、日々の日用品は十分まかなえるため、イオン進出がそれほど大きなプラス要因とならないとも考えられます。
②は既存スーパーまで約1.6kmと徒歩限界圏で、約720mの徒歩圏内にイオンができたことは好影響をもたらしそうですが、如何せん取引価格は下落しています。
一方、イオン遠隔地域の③草津市追分町はわずかに上昇という興味深い結果となっています。既存スーパーが約60mと至近にあり、これも①同様、小規模ながら日々の日用品購入には事足ります。
以上の分析をみる限り、イオンモール草津の出店がイオン近接地域にプラスに働いた様子は伺えません。

5. 考察

 鑑定評価の過程において、一般的要因の分析、地域要因の分析、個別的要因の分析を行います。 地価はマクロからミクロまで多種多様な要因の影響下、形成されるものであり、これらの要因を分析することが鑑定評価作業上不可欠だからです。

 前述のとおり、イオンモール草津の出店は2008年11月、その2ケ月前の9月に米国でリーマンショックがありました。 アメリカ住宅バブル崩壊に端を発した世界金融危機の真っ只中の、更なるマイナス要因発生直後に、地域要因のプラス要因が生じたわけですが、経済後退の大きな波の前ではその波及効果は小さく、減価要因を上回るほどの地価上昇要因とはなりえませんでした。 しかし、地価調査基準地にみる地価動向では、イオン近接地域の地価下落率はイオン遠隔地域に比べると小さく、プラス要因は顕在化しているようです。

 新興住宅団地の取引価格の近似値は、近接地域が横ばいと下落、遠隔地域がわずかに上昇という、期待とは反転した結果で、イオンモール草津出店の影響を読み取ることはできませんでした。

 そもそも大型商業施設の進出は近接の住宅地域にとって大きなプラス要因となりえるのでしょうか。 大型店ができれば交通量が増える、道が混む、騒音や排ガスも増える。 間近にある住宅地からすればそうそういいことばかりではありません。

 私個人の思惑としては、閑静な住宅地から徒歩や自転車で行けるところに日々の日用品を買う程度の小粒なスーパーがあって、車で30分以内のところに大型店があり休日に出かける、というのがベストだと思いますが…。 大型店舗の進出が他の店舗の立地を誘引し、繁華性が増し地域全体の活力がアップする、それが当該商業地の地価の上昇につながり、周辺住宅地価をも押し上げていく…という構図は想像にたやすいものですが、実際のところはどうなのでしょうか。

 新たな地域要因の発生が地価に与える影響を読むには、長いスパンでの分析が必要と考えます。 今回の調査は出店後約1年半の時点ですが、今後も継続して分析を続け、引き続きこのコーナーにアップしていきたいと思います。

 

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