研究室

Vol.10農地における土壌の良否の判断について

2007/07/02

「不動産の鑑定評価に関する法律」第55条によると、農地を農地以外のものとするための取引にかかわるものを除き、農地の評価は鑑定評価に含まれない、とあります。
しかし、公共用地取得等に係る農地の鑑定評価を行うケース以外にも、用途転換を前提としない純農地の評価を求められることは多々あり、特に地方の鑑定士にとって農地の評価に携わる機会は多いものであります。

鑑定評価基準では、農地の鑑定評価額は比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定、再調達原価を把握できる場合には、積算価格をも関連付けて決定すべきである、と記載されています。このうち比準価格試算において手引書となる土地価格比準表をみると、交通接近条件、自然的条件、行政的条件、その他があります。集落との接近性、出荷的集荷地との接近性、農道の状態・・・このあたりは一目瞭然で判断しやすいところです。
行政的条件は役所等の調査でわかります。
自然的条件についても、傾斜の方向や角度はまあわかりやすいです。潅漑の良否、排水の良否についても農業委員会で調査できます。水害の危険性や塩害・煙害・鳥獣害の危険性については判断の難しいところで、土壌の良否となると自身に農業の経験がなく、所有者からもヒアリングできない場合などは大変悩ましいところです。
そこで今回は『農地における土壌の良否の判断』をテーマに取り上げることにしました。

1.土壌のしくみ

まず土壌のしくみについて調べてみましょう。

(1)水田

田面水:水田土壌の表面には通常約3cmほどの田面水があります。この水があることで、大気から土壌への酸素の流入が制限されます。

酸化層:田面水が酸素流入を防いでも、すぐ下の土壌表面には水から酸素が供給され赤くなります。表面から厚さ5mmの土層は土中の鉄と酸素が結合して、鉄サビと同じ赤い酸化鉄ができたためです。

還元層:酸化層では細菌が呼吸のため活発に酸素を消費し、その下の12~15cmの耕され土層は酸素不足のため青い酸化第一鉄になり、土壌の色は灰色~青色になります。

鋤床 :さらに下は水漏れを防ぐために土を固めた層です。しかしまったく水漏れがないと還元層は極端な酸素不足になり、稲の根に障害を及ぼします。そこで鋤床 から少しずつ水を浸透させて還元層に酸素を供給させます。

(2)畑

水田が河川周辺の低地を利用されることが多いのに対し、畑は水の使えない台地に作られることが多いです。
台地の土壌は年平均で1,700mlにも達する雨量のため、
土壌から塩基性のイオンが流され、水素イオンが多くなり強い酸性となる
→土壌の強度の酸化により有害なアルミニウムが溶出、作物の育成を阻害
→リン酸がアルミニウムと結合し、作物に吸収できない形になる
という、大きな問題を抱えています。
水田は田面水が酸化を防いでいるためこうした問題がおきませんが、畑は土壌全体が酸化層であるため、この他にも様々な問題が生じます。
酸素が多いことにより微生物が活発に有機物を分解するため、すぐに有機物が少なくなり、無肥料だと養分不足となります。
また酸素不足の水田では問題ありませんが、畑では同種作物を連作すると、病害虫が土壌に集積して収量が低下します。
このように畑は水田に比べて作物育成に不利な条件を抱えています。

2.水の管理

(1)水田

水田の水路は用水路と排水路に分かれています。水田は水を張り続けていると土壌が酸素不足になり根が傷むので、途中で一時的に水をぬき土壌に空気を入れ、その後にまた水をいれる操作を繰り返します。昔は1本の水路で用水と排水を兼ねていましたが、排水した水が隣田に入ってしまい、排水が不完全となります。このため、用水路と排水路が分離されるようになりました。
稲を作るにはダムやため池を作り、河川等も含め水田まで用水路を造って水を運び、排水を河川に戻す排水路を作るという膨大な工事が必要なのです。

(2)畑

前述のように、水田が水の便のよい河川沿いにあるのに対し、畑は水の便の悪い地域にあることが多いです。
畑も水源から用水路で引水するのは同じです。
小さな穴のあいたチューブを畑の畝間に敷設して噴水状に噴出させたり、スプリンクラーから噴水状に水をかけたり、畝間の土壌に直接水を流したりして、灌漑を行います。

畑への灌漑では排水不良で水が貯まるとかえって作物の生育が悪くなり病気が多発するので、排水路の整備も重要なのはいうまでもありません。

3.耕作放棄地の土壌

まわりにきれいに手入れされた田畑が並ぶなか、雑草が生い茂って農地だか平山林だかわからないような休耕農地が見られることがあります。このように耕作放棄された農地の場合、土壌にどのような影響が出るのでしょうか?
耕作が放棄された水田には、畑には雑草などが生えてきます。湿地もそのうち 干上がり、草からやがて潅木が、そして大きな樹木が生えます。

葦や木の生えた土地はすぐには耕地に戻せません。

こうして放棄地は野生生物の生息地となり、病原菌・害虫や作物を食い荒らす動物等の温床となります。
耕作放棄された水田では畦が崩れて低くなり、雨水を貯める量が減ってしまいます。
また棚田では階段状の壁が壊れ、土砂崩れを引き起こすこともあります。
このように、一旦荒地と成り果てた農地の土壌をもとどおり機能回復するには 大変な労力を要するといえ、耕作放棄は当該地のみならず周辺の農地にも悪影響を及ぼすのです。

4.農地の土壌汚染について

農地の土壌汚染は、そこで育成された作物がそのまま口に入るため、きわめて怖いものです。
農地の土壌汚染については、農用地土壌汚染防止法が昭和45年に制定されており、平成14年に制定された土壌汚染対策法よりもはるかに長い歴史を有します。
これは農用地の土壌に含まれる特定有害物質により、「人の健康をそこなうおそれがある農畜産物が生産され、又は農作物等の生育が阻害されることを防止」することを目的として制定されたものであり、現在特定有害物質としてカドミウム、銅及び砒素が規定されています。
当法においては、一定の地域内の農用地の土壌及び当該農用地に生育する農作物等に含まれる特定有害物質に関し、一定の要件に該当する地域を都道府県知事が「農用地土壌汚染対策地域」として指定した上で「農用地土壌汚染対策計画」を 策定し、かんがい排水施設の新設、客土等汚染の防止及び除去を行い、汚染農用地を復元するための所要の対策を講じることとされており、国は、対策計画策定に必要な調査、対策事業等に要する費用に対し助成を行っています。
役所調査の際は対策地域に指定されていないか、もれずに確認する必要があります。

5.まとめ

以上の研究を踏まえると、あたりまえのことですが、田と畑はまったく異なる性質のものであることが明白にわかります。土壌のしくみも違えばそもそも展開している立地も違います(もちろん山手の水田もある一方で河川付近の畑もあり、一概には言えませんが)。
取引事例比較法を適用する際、事例収集において田の評価には田の事例、畑の評価には畑の事例を収集することは原則ですが、純農地の事例は宅地の事例と比べて少なく、採用せざるを得ないこともあるのが実情です。
この場合水田の評価に畑の事例を用いることはできそうです。なぜなら稲の裏作や転作に畑作物を作ることがあるからです。
一方、畑の転作で稲を植えることはなく、畑の評価に水田の事例を採用することは困難であるといえましょう。
実際のところ土壌の良し悪しを目で見ただけで判断するのは至難の業です。所有者へのヒアリングができないケースも多いのですが、農業委員会や地元精通者からできる限りの情報を得ることが評価の要となるでしょう。

ところで先月高島市を通ったら、みごとなレンゲ畑が連なって、薄紫の美しい花が
広大に咲き誇っていました。レンゲ農法といって、冬の間にレンゲを育て、春に鋤き
こんで緑肥とする農法で、地力増進に有効なため、裏作や転作によく用いられるのです。
地方都市の不動産鑑定士として農地の評価は切っても切れないもの。
まだまだ学ぶべきことは多いです。

(参考文献)

『図解雑学 農業』:西尾道徳・西尾敏彦 著 ナツメ社
『イラスト図解 コメのすべて』:有坪民雄 著 日本実業出版社
http://www.maff.go.jp/cd/index.html :食品中のカドミウムに関する情報
http://okadafarm.com/ :岡田農場だより  

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