豆知識

Vol.56 CRE戦略について

2012/02/09

1.はじめに

日本の不動産市場は「バブル」の崩壊を経て地価は20年近く下落し続け、この間の不良債権問題や資産価値下落は企業経営のみならず、経済全体を圧迫してきました。その後平成12年の資産流動化法の施行に伴う不動産証券化市場の拡大により、積極的な不動産投資を誘引し、都市部を中心に不動産市場が過熱しましたが、平成20年に顕在化したいわゆる「サブプライムローン問題」を発端とした世界的な金融危機の影響により、景気全体が悪化し不動産に対する需要も再び減少している状況です。
このような不動産市場にあって、企業不動産を取り巻く環境も大きく変化しています。具体的には、不動産の証券化、減損会計や会計基準のグローバルコンバージェンス、土壌汚染・耐震偽装問題等さまざまなものがありますが、各企業はこれまで以上に保有不動産の適切な保全・管理が必要となり、企業の利害関係者への説明責任がより強まっていく傾向にあります。このような変化に対応すべく、企業にとって限られた経営資源である企業不動産を、経営に最大限有効活用していこうという発想が「CRE戦略」と呼ばれる概念です。

2.CREとは?

CREとは、Corporate Real Estateの略称で企業が事業を行っていくために、所有したり賃借したりするすべての不動産のことであり、具体的には本社、支店、工場、店舗、社宅等の自社施設、保養所等の福利厚生施設のほか、遊休地等も含みます。つまり経営上必要となる一切の不動産がCREにあたります。
企業にとって不動産の有効活用の必要性は、従来から指摘されてきたところですが、戦略的な不動産活用を行ってきた企業はそう多くないのが実情です。CRE戦略では、こうした実情を踏まえ、自社の経営戦略と一体として、不動産に係る経営形態そのものについて見直しを行い、必要に応じてCRE戦略担当部局の設置など会社組織の再編、CRE戦略担当の人材育成も行っていくことになります。

3.CRE戦略導入の目的

(1)企業価値の向上のため

CRE戦略導入の最大の目的は企業価値の向上です。例えば不動産の保有に係るコスト削減(修繕費、管理費等)や収益性が低い事業の用に供されている不動産や、遊休地を売却することで得られたキャッシュを収益性の高い事業に再投資することなどにより、企業価値を向上させることができる場合があります。

(2)地域社会の一員として企業の社会的責任を果たすこと

企業不動産は、経営資源であるだけでなく、社会的資本であるという公共財としての一面も有しています。したがって、地域社会の一員として企業の社会的責任(CSR)を果たすことも、CRE戦略の重要な目的の一つです。企業不動産に係るCSRの例としては、耐震、アスベスト、土壌汚染等への対応、景観や環境問題への配慮、地域社会への貢献などが挙げられます。

(3)制度改正への対応のため

日本の企業会計基準は取得原価主義を採用しているため、財務諸表等に不動産の時価の変動が現れず、企業の適正な財政状態が判断しにくいという取得原価主義の欠点が指摘されてきました。さらに企業や投資資金のグローバル化によって、会計基準の国際的コンバージェンスの流れが決定的となり、日本の企業会計基準においても一定の場合(減損会計、賃貸等不動産など)に不動産の時価評価を行う、あるいは時価を注記することによって開示することとなっています。
従ってこれらの時価開示導入をきっかけに、企業も所有不動産の時価を意識せざるを得なくなっており、企業不動産の収益性の低下や時価の下落に伴う減損損失等が決算書に適切に反映されているか、という経理プロセスの確立が必要となっています。

4.CRE戦略導入の効果

CRE戦略の効果としては、以下のようなものを考えることができます。

(1)コスト削減

・管理業務のアウトソーシング、本社・支店の統廃合を行う。

(2)キャッシュ・イン・フローの増加

・立地や業務の集積化を行い利用方法の適正化を図ることで生産性を向上させる。
・ 遊休不動産を売却し、その売却収入を本業に投入し、強化を図る。

(3)不動産が経営に与えるリスクの分散化・軽減・除去

・不動産固有のリスク、市況リスクについてマネジメントを行う。
・ 不動産リスクマネジメントから開放されるために、不動産のオフバランスや業務のアウトソーシングを行う。

(4)地域への貢献

・企業価値の上昇は、その立地する地域における雇用の確保、企業・個人の所得増、ひいては地域経済の活性化につながることもあり得る。

(5)適正な地価形成への寄与

・CRE戦略が普及することにより、不動産市場では、実需に基づく需要と、売り渋りのない適正な供給が増えることが期待される。これは不動産市場における価格決定メカニズムの適正化につながることになる。

5.CRE最適化マネジメントの実践手法

CRE戦略の実践は上記のように、土地の有効利用の促進、地域経済の再生や地価の安定化などにも寄与するものと考えられており、国土交通省では、「CRE実践のためのガイドライン(平成20年度改訂版)を公表し、CRE戦略の遂行にあたっての実践手法の雛形(CREマネジメントサイクル)を策定、CRE戦略の実践を推奨しています。以下では、実践の標準的なモデルとも言えるCREマネジメントサイクルを紹介します。

CREマネジメントサイクルのイメージ

出所:国土交通省作成

まずCREマネジメントサイクルは、五つの作業項目(1)Research(2)Planning(3) Practice(4)Review(5)Act により構成され、それぞれの作業項目が有機的に連携しながら、循環モデル(サイクル)へと発展させていくイメージです。

(1)Research(リサーチ)

リサーチは、CREマネジメントを実践するための基盤づくりに該当し、その位置付けは極めて重要です。この段階では①CREフレームワークの構築と②CRE情報の棚卸の二つの作業を実施します。

①CREフレームワークの構築
CREフレームワークとは、CREマネジメントを正しいルールに則り、実践するための枠組みであり、CREマネジメントを行ううえでの統制方法(規則・規約等)を規定する概念です。CREフレームワークは、CRE関連業務の遂行にあたって常に参照すべき基本ルールであり、継続的な運用、定期的改善が前提となります。

②CRE情報の棚卸
CRE情報の棚卸とは、企業不動産の総合的調査を意味し、土地・建物の物理的な情報、権利関係の情報、法的規制、経済的な情報(賃料収入、修繕費の支出額等)等について調査を行います。この調査により、初めて企業不動産に関する全体像が把握され、多角的な分析が可能となります。

(2)Planning(プランニング)

Planning においては、(1)Researchで整備したCRE関連情報に関して、様々な観点からの分析を行い、その結果を経営者層が重要な意思決定(自社ビルの売却、新設工場用地の取得、大規模店舗の賃借等)を行う際に活用する判断支援レポート「CRE最適化施策書(プログラム)」を作成します。
これは①ポジショニング分析②個別不動産分析③CRE最適化シミュレーションの実行④CRE最適化施策後の財務影響分析等の結果を取りまとめるという作業を通じて行うことになります。

①ポジショニング分析
ポジショニング分析とは、企業不動産を「事業用・非事業用」、「コア・ノンコア」の観点で分類したうえでマッピングし、さらに各象限それぞれに関して、設定する軸による様々な詳細分析を行うものです。この作業を通じて企業不動産の所有の傾向を把握することができます。

ポジショニング分析イメージ図

ポジショニング分析イメージ図

出所:株式会社三井物産戦略研究所作成

②個別不動産分析
個別不動産分析とは、個別の不動産を経営資源として捉え、その経営効率・重要性・リスク等を分析する作業です。個別不動産分析では、下記のような観点から詳細分析を行っていきます。

■ LCC(ライフサイクルコスト)分析
個別の不動産に関し、建築・設備の維持、メンテナンス、運用等に係るコストが中長期にどの程度必要とされるのかを把握するための分析。

■ 個別CRE収益率分析
個別の不動産に係る収益及びコストデータを統合し、その収益率を把握するための分析。

■ CRE遵法性分析
建築基準法や宅地建物取引業法等の法律や建築上のルールに沿った建築物であるかどうかを把握するための分析。

③CRE最適化シミュレーションの実行
CRE最適化マネジメントを実行するため、上記分析に基づきCREに関する所有・使用形態に係る最適化シミュレーションを幾つかのケース(継続所有・使用、購入、売却等)を設定して行います。

④CRE最適化施策後の財務影響分析
CRE最適化施策後の財務影響分析は、上記CRE最適化シミュレーションに基づいて実施される最適化(継続所有・使用、購入、売却等)が、企業の財務面にどのような影響を与えるのかを損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー表の三面から捉える分析です。

⑤CRE最適化施策書の作成及び報告
経営者層が的確なCRE戦略を策定できるよう上記シミュレーションの分析結果を取りまとめ、報告する作業です。この報告は、①ポジショニング分析、②個別不動産分析、③CRE最適化シミュレーション、④財務影響分析等の結果を「CRE最適化施策書(プログラム)」という形でとりまとめます。

(3)Practice(プラクティス)

Practice では、(2)Planningでまとめた最終レポート「CRE最適化施策書(プログラム)」に基づく経営者層の判断を踏まえ、「CRE最適化施術書(アクションプラン)」を作成し、CRE最適化(継続所有、賃貸借、購入、売却等)を実行します。

(4)Review(レビュー)

レビューでは、実行されたCRE最適化の効果を検証します。

(5)Act(アクト)

(4)Reviewにおけるモニタリングの結果を、(1)Researchへフィードバックの上、「Act(改善)」を施します。この一連の流れを構築し継続的に行っていくことにより、CREマネジメントサイクルは完成となります。

6.最後に

不動産は企業にとって非常に大きなウエイトを占める経営資源です。しかしこれまで不動産を単体のものとして捉え、物理的な管理に終始してきた企業が多かったのが現状です。これから企業は、自社の不動産について総合的に見直しを図り、独自の経営戦略の中に不動産の戦略的なマネジメントを組み込んで、企業のステークホルダー(利害関係者)への説明責任を果たしていく必要があります。今回ご説明したCREマネジメントサイクルはその一助となるものと考えられます。

※参考文献
CRE戦略実践のためのガイドライン(国土交通省)
不動産評価の新しい潮流(財団法人日本不動産研究所)

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