豆知識

Vol.51「公図混乱地域」について

2011/10/05

日本国内で土地の位置や形状を調べる場合、法務局(登記所)で公図を取得することが必要になります。しかし、この公図については現在でも公図と現況が大きく相違している地域が多く存在します。今回は、このような「公図混乱地域」の問題について取り上げます。

■公図とは

不動産登記法第14条によると、「登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする」と規定されています。「地図は、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものとする。」とされ、土地の登記記録の情報に加えて、地図によって土地の位置と形状等が判断できるようになっています。
この法第14条の地図は、正確な測量と調査に基づき、不動産登記規則等により、縮尺、測量方法、測量における誤差の限度など様々な条件を満たしたものをいいます。(不動産登記規則第10条ご参照)この制度は、昭和35年の不動産登記法一部改正の際に設けられたのですが、地図作成の要件の厳しさや予算の制約の面から、地図の備え付けはその後あまり進みませんでした。その代わりとして、法務局が昔から保管してきた法第14条地図以外の地図が一般の閲覧に供されてきました。平成5年の不動産登記法改正の際に、「登記所には、地図が備え付けられるまでの間、これに代えて、地図に準ずる図面を備え付けることができる。」ことが明記され、土地の位置、形状及び地番を表示する地図として、これらが現在も一般に利用されています。ただし、これらは明治時代に地租を課すための資料として測量・作成されたものが多く、精度としてはあまり高くありません。なお、法務局備付けのこれらの地図すべてを総称して「公図」と呼んでいますが、特に前者が「法第14条地図」、後者が「公図」として区別されています。

法務局に備え付けられているこれらの地図として、さらにその種類を分類すれば、以下の通りとなります。













法第14条地図 ①法務局作製の地図
②国土調査の成果による地籍図(地図としての要件を充たすもの)
③土地区画整理の成果による土地所在図( 同 上 )
地図に準ずる図面
(一般に公図と
呼ばれるもの)
④(旧)土地台帳附属地図(地押調査図、字限図など)
⑤国土調査の成果による地籍図(昭和26年の国土調査法施行時及びその後作製、法14条の精度はもっていない)
⑥土地区画整理図(震災や戦災復興土地区画整理事業、その後の区画整理など古い時期に作製、法14条の精度はもっていない)
地図に準ずる図面
(一般に公図と
呼ばれるもの)
※主なものの例示
⑦耕地整理図(明治32年制定の耕地整理法に基づき狭小・不整形であった近世以前の水田の区画形状の整備を目的とした耕地整理の図面)
⑧土地改良図(耕地整理法に代わり昭和24年に制定された土地改良法による農用地の改変に伴う図面、法14条の精度はもっていない)

■公図混乱地域とは

「公図混乱地域」とは、ある程度の広がりがあり、土地の登記記録や法務局備え付けの公図に記載されている内容と土地の実際の位置や形状等が大きく相違し、登記上の土地を現地で特定することができない地域のことです。法務省によると全国に約750地域、約820k㎡あり、不動産の物理的状況を正確に公示できていないため、取引の安全面等で大きな問題になっている地域があります。
具体的には、
・登記記録にある地番がどの場所に存在するか不明である。(不存在地)
・同一地番の登記記録が重複して存在しており、対応関係が不明である。(重複登記)
・登記記録の所有者と実際の使用者が全くの別人であり、地権者が分からない(地権者不明)
などの現象が見られます。

地図混乱地域の主な原因として、以下のものが考えられます。
①公図が作成された当時から現地の状況を反映していなかったもの
②現地の位置・形状が変更されたが、登記に反映されないまま放置され筆界が不明になったもの
③土地の分譲に伴う登記手続を行うときに、現地の位置を誤ったもの
④地震・火山の噴火・水害等の自然災害による地殻変動によるもの
⑤公図の備付けが不備のまま分筆・地積更正・地図訂正等が繰り返され、地図・公図が備え付けられた時点で混乱状態になっていたもの

例えば、戦後の1950年代以降、人口急増により住宅需要が急拡大し、宅地造成業者が公図との現地照合・地図訂正・区画整理を怠ったまま、造成、分筆、宅地販売を繰り返した結果、地図混乱地域が多く生まれる大きな原因の一つとなりました。
前述の通り公図は精度が低いものが多く、所有者(宅地造成業者)が利害関係者の同意を得て地図の訂正を行うべきところ、これを怠り、法務局も公図と現地の実態調査を行わないまま登記がされてしまったのです。この地図訂正は、不動産登記規則により登記名義人が自ら申請するものとされ、法務局の職権では原則行わないものとなっています。

■公図混乱地域の影響

公図混乱地域では、以下のような影響が考えられます。

A.土地の境界が不明確なため、土地取引等の際にリスクがある。
 →土地の境界が不明確なため、取引等の場合に境界の調査・測量に多くの時間や費用が必要となる。また需要者にとって心理的な減価要因となりうる。

B.都市再生への支障となる。
 →道路整備、区画整理による開発事業などまちづくりを進める上で、境界確認に多大な時間・費用を要し、土地利用やまちづくりを阻害する要因となる。

C.災害復旧の遅れの原因となる。
 →災害が発生した場合、道路、上下水道等の復旧、住宅の再建築に着手する前に、土地所有者・境界の調査に時間と手間がかかり、被災地の復旧・復興が遅れる要因となる。

D.公共用地の適正な管理への支障となる。
 →市町村等が管理する公共用地(道路・水路など)の適正な管理を行うために管理すべき範囲が不明確であり、調査に時間と手間がかかり、管理や整備に支障をきたす。

E.課税の公平性の問題となる。
 →土地所有者に課される固定資産税等は原則、登記地積に基づいているが、必ずしも面積が正確ではない場合もあり、課税の公平性が確保されない。

○事例:大津市和邇北浜の住吉台地区
全域が市街化調整区域に含まれるが、旧志賀町の旧認定団地制度の適用を受け、自己居住用の住宅建築が認められていたため、1960年代に約12.6ha、23街区に352区画が造成され、現在は500人を超える住民が生活している。法務局の公図は明治時代に作成されたままで何の訂正も加えられていない。公図と実際の土地の形状・境界が大きく異なり、宅地と道路の権利関係が未確定であり、行政による道路や下水道等の社会基盤整備が進んでいない。公図混乱問題に気づいた法務局が1995年から実態調査に乗り出しているが、登記上存在し、所在は不明の地番が41件確認され、正確な地図作成には至っていない。

<公図混乱による影響>
社会基盤整備の停滞
:道路は市道認定ができず、下水道の整備が進んでいないため、排水設備の管理費用や道路の陥没の復旧費用は住民が負担している。
自然災害:豪雨によるがけ崩れ等が起きたが、地権者が複数存在し、復旧工事に全員の同意が必要なため、復旧にかなりの時間を要した。

■公図混乱地域の解消への対策

公図混乱地域における地図訂正には個人だけでは多額の費用がかかるため、解消の方法として、現実的には次の3つが考えられます。
①法務局による14条地図作成作業による是正方法
②国土調査法に基づく地籍調査による是正方法
③利害関係者全員の合意に基づく地図訂正(集団和解方式)による方法

最近では、国土交通省と法務省が連携して2004年から地籍調査を通じた地図の整備作業がなされ、2010年までの6年間で58k㎡が完了し、さらに2009年から8年間で130k㎡の地図作成計画が策定されています(地籍調査の進捗度は2010年3月末時点で全国の49%)。また、利害関係者全員の合意に基づく地図訂正(集団和解方式)については多数の関係者の合意は極めて困難ですが、和解を成立させた事例が全国的に見受けられます。

■土地価格への影響

公図混乱地域内の土地の価格への影響については、登記上の土地を現地で特定することができないことが最大のマイナス要因です。公図が現況と合致していなくても、公図以外の資料(地積測量図、建物図面、地番図等)によって、対象土地の位置や境界が特定でき、土地の権利関係が明確になっている土地であれば取引に当たって大きな影響はないと言うこともできます。
公図混乱地域については、正確な土地の面積および境界が不明であり、同一の土地の上に複数の登記記録が存在する場合、地権者が複数存在することから権利紛争の原因となることも想定されます。このような面から、土地が確定できないことによる売買の困難性、土地を担保とする融資が実行されにくいこと、調査・測量の費用負担や心理的な嫌悪感が生じます。更に、道路や公共下水道が未整備で管理費用負担の可能性があります。よって、公図混乱地域については、土地価格へ直接マイナスの影響を与えるものと言えます。

■まとめ

95年の阪神大震災では、被害を受けた神戸市兵庫区では10ha以上の地図混乱地域を震災が直撃しました。当時数百人いた住民の土地所有権が不明確であり、銀行が土地を担保に融資を行えず、家屋の建て替えや土地売買ができない住民が続出しましたが、住民が関係機関の協力を得て公図の変更を認めてもらいました。今回の東日本大震災でも、壊滅的打撃を受けた東北地方の海岸の一部に公図混乱地域が存在しているということですが、復興の途中で境界や所有者について問題となる恐れがあります。
このような公図混乱地域をなくすために、地籍調査等を進め、境界の復元が可能な正確な地図を早急に作製しておくべきだと思われます。

以 上

公図・住宅地図

 

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