豆知識

Vol.48 建築物の高さに関する数値(31m及び20m)について

2011/04/25

建築基準法等における建築物の高さを指標とする法令には「31m」及び「20m」という数値がよく使用されています。特に「31m」については中途半端な数値と感じる方も多いと思います。そこで今回の豆知識ではこれらの数値の由来及び根拠について調べてみました。

1.31m及び20mが使用されている主な法令及びその概要

建築基準法及び消防法においては、主に下表に示す条項に31m及び20mの数値が使用されています。この数値は建築物そのものの高さの制限よりむしろ非常用昇降機や設備関係の規定に多く使用されていることが分かります。

法令

項目

概要

31m

建築基準法

34条

非常用昇降機の設置

高さ31mをこえる建築物

56条

隣地斜線制限の
立ち上げの高さ

高さ31mを超える部分

令82条の3
令82条の4

構造計算方法

高さ31m以下の建築物
高さ31mを超える建築物

令126条の2

排煙設備の設置

高さ31m以下の部分にある居室

令126条の6

非常用進入口の設置

高さ31m以下の部分

令129条

特殊建築物等の
内装制限の特例

耐火建築物等の高さ31m以下の部分
特殊建築物の高さ31m以下の部分

令129条の13の2

非常用昇降機の
設置の特例

高さ31mを超える部分

令129条の13の3

非常用昇降機の設置

高さ31mを超える部分

令137条の6

非常用昇降機関係

高さ31mを超える建築物

消防法

8条の2

消防計画の作成等

高さ31mを超える建築物(高層建築物)

8条の3

防火性能の確保

高さ31mを超える建築物(高層建築物)

令27条

消防用水の設置基準

高さ31mを超える建築物

20m

建築基準法

20条

構造基準への適合

高さ20mを超えるRC造・SRC造の建築物

33条

避雷設備の設置

高さ20mをこえる建築物

56条

隣地斜線制限の
立ち上げの高さ

高さ20mを超える部分

68条の3

再開発等促進区等の
制限の緩和

地区整備計画等で高さの最高限度が
20m以下に定められている区域

令36条の2

構造基準への適合が
要求される建築物

RC造・SRC造とを併用する建築物で、高さが20mを超えるもの

令129条の14

避雷設備の設置

建築物の高さ20mをこえる部分

2.31m及び20mの由来・根拠について

(1)市街地建築物法における高さ制限について

建築基準法に使用されている31m及び20mの数値は、建築基準法の前身である市街地建築物法の絶対高さ制限に由来しています。
ここで、市街地建築物法とは、1900年代に入り、東京・大阪等の大都市を中心に人口が増加し、都市の無秩序な拡大が社会問題となっていた中、都市の不健全な発達や秩序なき膨張を防止するために、1919年4月に公布、1920年12月に施行された法律を言います。 市街地建築物法における建築物の高さの制限は、①用途地域、②前面道路幅員、③構造による高さ制限の3つの制限が設けられていました。

①用途地域による高さ制限
市街地建築物法・旧都市計画法における用途地域(住居、商業、工業、未指定の4種)   のうち住居地域は65尺(約20m)、それ以外の地域は100尺(約31m)とされていました。

②前面道路幅員による高さ制限
道路斜線制限と前面道路幅員に応じた絶対高さ制限を組み合わせた制限になっていました。道路斜線制限は現行の建築基準法と同様の考え方に拠り、前面道路幅員に応じた絶対高さ制限は前面道路幅員の1.5倍(住居地域は1.25倍)に25尺(約8m)を加えた高さを限度とするものでした。

③構造による高さ制限
煉瓦造と石造は高さ65尺(約20m)かつ軒高50尺(約15m)、木造は高さ50尺かつ軒高38尺(約12m)、階数3、そして木骨煉瓦造と木骨石造は高さ36尺(約11m)、軒高26尺(約8m)に制限されていました。尚、鉄筋コンクリート造と鉄骨造は震災、風災、火災に対する抵抗力が優れているために、構造上の高さ制限は設けられていませんでした。

これらの市街地建築物法における高さ制限のうち「①用途地域による高さ制限」において設定された絶対高さ制限、住居地域「65尺」及び住居地域以外「100尺」が現在の建築基準法等で使用されている「20m」及び「31m」に由来しています。
では、市街地建築物法における絶対高さ制限「65尺」及び「100尺」はどのように決定されたのでしょうか?この由来及び根拠については、諸説あるためそれらについて次に示します。

(2)「100尺」の由来及び根拠について

①既存高層建築物の高さ
1918年の絶対高さ設定当時の既存の高層建築物である東京丸の内の東京海上保険ビルの高さが100尺に収まっていたこと及び当時設計中の三菱の丸の内ビルディング、郵船会社の郵船ビルディング及び日本石油の有楽館等の高層建築物についても100尺以下であったことから、当時増えつつあった高層建築物が既存不適格にならない高さから100尺が導き出されたという説。

②東京市建築条例案やロンドン建築法の影響 (東京市は現在の東京23区に相当)
当時日本建築学会にて検討されていた東京市建築条例案の絶対高さ制限値は50尺であったが、特別な構造として許可されたものに限り100尺まで許容されたことに由来するという説。尚、東京市建築条例案は、ロンドン建築法における絶対高さ100フィート(約30.5m)の規制に大きく影響したと言われています。

③消火活動の限界高さ
当時の消防ポンプ車の活動可能高さが概ね100尺であったことに由来するという説。尚、上記ロンドン建築法において100フィートが設定された理由の1つには消防活動の限界が挙げられています。

④ラウンド・ナンバー 
運用上わかりやすい数値にする必要性からラウンド・ナンバーである100尺になったという説。 市街地建築物法制定にあたって中心的な役割を果たした人物も「100という数字が極めて簡単なラウンド・ナンバーであることから、この100尺という数に定めるという説が有力になった」とも述べているようです。

(3)「65尺」の由来及び根拠について

①実用性から
当時の住宅建築において65尺で建築できる階数は、勾配屋根の場合4階建、陸屋根の場合5階建であり、当時の住宅にエレベータが設置されることはほとんどなく、5階が歩いて上れる高さの限界だったことを踏まえて導き出されたとされる説。

②海外の高さ制限値を参考に
パリやベルリンの高さ制限値が20m前後であったことも参考にしたという説。

(4)まとめ

現在の建築基準法等で用いられている「31m」及び「20m」の数値は、建築基準法の前身である市街地建築物法における絶対高さ制限「100尺」及び「65尺」に由来し、そのメートル換算による数値であることははっきりしています。従って、なぜ「31m」といった中途半端とも思われる数値になっているかについては理解できると思います。
一方、市街地建築物法における絶対高さ制限「100尺」及び「65尺」の数値自体の根拠については上記の通り諸説があり明確ではないものの、これらの数値が決定された当時の社会情勢や技術水準に基づいたものであることが分かります。
従って、今後現代に合った数値に見直しされる可能性がありますが、現代には景観などの新たに重視されるべきファクターがあるため、これらを勘案した数値に設定されると思われます。

出典;【研究ノート】市街地建築物法における絶対高さ制限の成立と変遷に関する考察
             ―用途地域の100尺(31m)規制の設定根拠について― 大澤 昭彦
   RBAタイムズ「絶対高さ制限の背景にある100尺規制とは」

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